4. 知覚心理学と絵画芸術の接点
錯覚の科学 ('14)
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4-1. 奥行き知覚と恒常現象
絵画的手がかりは経験によって学習される(手がかりの種類によっては非常に早期に発達するのでほとんど生得的なものと捉える場合もある)
恒常現象:網膜像の変化に依存せずに現実の世界を安定したものとしてトップダウン的に再構成する心的な働き
恒常度ゼロ <---> 完全恒常
4-2. 子供の絵はなぜ面白いのか
人の乳児は生後かなり早い時期から運動視差による奥行き手がかりを利用できるようになり、大きさや形の恒常性も大人と同じように働くようになるとされる。
両眼立体視は生後3~4ヶ月ごろには正確になる
物体同士の重なりの利用:5ヶ月くらい
陰影による手がかり:7ヶ月くらい
一方、線遠近法などの絵画的手がかりはかなりの訓練が必要
子供の絵は内的世界がそのまま表出される性質がある
透明画法(レントゲン画法):実際には隠れて見えない部分があたかも見えているかのように描かれる
分かち描き:一体化していたり隠れたりしている要素をバラバラに分解して描く
目で見た対象ではなく、実際に自分が知っている存在を描く傾向がある
擬鳥瞰図法、疑似展開図:実際にはありえない視点からの見取り図
頭足人:胴体を描かずに頭に手足がついた描写
視覚的写実主義:線遠近法に則って正確に再現された絵
知的写実主義 :「表現する物事の本質的な要素をできるだけ多く、可能な限り細大漏らさず、各々の特徴的な形、いわば"その物自体"を保存しながら描く」こと(ジョルジュ・アンリ・リュケ)
知的写実主義傾向は幼児期〜8歳頃まで
遠近法的な絵画表現の学習と社会性が獲得されていく発達過程
4-3. 絵画の歴史と遠近法の発見
古代エジプト壁画:対象の重なり、遠くのものは上に積み上げていく。大きさの恒常度が非常に高く保たれている。
やまと絵遠近法:遠方の積み重ね、斜めから並行に投影された構図
見た通りに忠実に描けば線遠近法的な表現になるわけではない
人の自然な知覚は恒常性に従っており、網膜像に忠実な線遠近法は個人の発達においては学習される必要があり、また歴史的にも発見される必要があった。
線遠近法が理解され本格的に用いられるようになったのはルネッサンス期から
線遠近法:建築家フィリッポ・ブルネッレスキによって発見され、レオン・バッティスタ・アルベルティの『絵画論』によって理論化された
3次元の立体が二次元に投影されるとこう見えるはずだという幾何学的な計算
これは、カメラオブスキュラ(camera obscura)の発明による光学的な投影の仕組みと解剖学による眼球の構造が明らかになったことが大きい
大気遠近法
恒常度ゼロ(写真の世界)に向かう西洋絵画
ルネッサンス期に線遠近法によって大きさの恒常性が克服された
17世紀のバロック期には明るさの恒常性を否定する表現も現れた ex.レンブラント
19世紀の初期の印象派では色の恒常性に従わない絵画表現も現れるようになった ex. モネ「印象・日の出」 光線そのものが持つ色彩
しかし、19世紀に写真技術が普及しリアルな視覚表現が実現されてしまった
そのため、絵画表現は人間的で自然な知覚にこそ求められるようになった
ルネッサンス的写実絵画から近代絵画への橋渡し
17世紀のオランダ絵画の表現に現れる
恒常性と関わる絵画表現の本格的な転換期は19世紀の印象派の時代から:線遠近法が重視されなくなり、大気遠近法的な表現が好まれるようになった。 ex. ポール・セザンヌ
20世紀初頭 現代絵画(フォービスム、キュビスムなど)
写実的な表現は強く否定され、色や形は芸術家の内的な感覚の表現であることが重視された。ex. パブロ・ピカソ
神経科学者セッキ
「美術は恒常的なものの追求であり、その過程において画家は多くのものを捨て去り、本質的なものを追求していくので、美術は視覚脳の機能の延長に当たる」